都立中高一貫校対策クラスの講師になった10年前と比べると、たしかに受かる子が増えている感覚はあります。
でも本当に、「公立中高一貫校は受かりやすくなっている」のでしょうか?
今回は、公立中高一貫校が受かりやすくなったかどうか、具体的なデータを見ながら塾講師目線でお伝えしていきます。
さっそくデータから読み解いていきましょう!
データで見る都立中高一貫校倍率の推移
「公立中高一貫校の倍率は下がってきている」とよく耳にするかと思います。
実際、都立中高一貫校も徐々にではありますが、倍率が下がってきています。
7.62倍(H25年度)→5.92倍(H30年度)
(引用元:東京都教育委員会「過去の応募状況」)
過去5年間で少しですが下がってきたのが分かりますね。
受検倍率が下がっている要因その①
私が講師になった頃から比較すると、子どもの人口はグッと下がっています。
1,759万人(2005年)→1,553万人(2018年)
(「我が国のこどもの数」総務省統計局より引用)
なんと、10年ちょっとで206万人も子どもが減っているんですね。(よく考えると恐ろしい問題ですよね…)
しかし、次のようなデータもあります。
- 対前年比でみると、東京のみ こどもが増加
- 東京都、神奈川県、愛知県、大阪府はこどもが100万人超
・(「我が国のこどもの数」 総務省統計局より引用)
受検倍率が下がっている要因その②
約20年前の制度実施以降、私立も含めて中高一貫校はどんどん開設されました。
ものすごい勢いで増えていますね!
これはたまたま開設ブームが起こっているのではなく、15年以上前から文部科学省によって「中高一貫校を増やして学力を底上げしていこう!」という取り組みが根底にあるからなんです。
(中略)文部科学省においては、中高一貫教育校が地域の身近なところに数多く設置されることが必要であるとして、当面は、高等学校の通学範囲(全国で500程度)に少なくとも1校程度整備されることを目標として、平成10年度から各都道府県等に研究会議や推進校を設けて中高一貫教育の実践的な教育を行う事業を委嘱しているほか、全国6会場における「中高一貫教育推進フォーラム」の開催、中高一貫教育に対する理解を促進する積極的な推進を図っているところである。(中略)中高一貫教育の導入に向けて積極的な検討が行われているところである。
(平成15年版「青少年白書(現:子供・若者白書)」より引用)
平成31年には「公設民営」の中高一貫校として大阪市立水都国際中学校・高等学校が開校します。すでに定員を大幅に超える応募が殺到していて、話題沸騰中ですね。
子どもの人口がガクッと減っているのに対し、中高一貫校はどんどん増えている訳なので、高い倍率が徐々に落ち着いてきているのも納得ですね。
「倍率が下がってきている」の落とし穴
ここまでは「人口減」や「学校増」など、倍率が下がった表向きの理由をお伝えしました。
公立中高一貫校の倍率は確かに減ってはきましたが、10年前と比べると明らかに受検生の質が上がってきています。これは、塾業界に共通する認識だと思います。
受検生の質が底上げされた理由はいくつか考えられます。
チャレンジ層が減ってきた
開設当初は、ちょっとお祭りムードというか、「お友達が受けるから私も~!」というような軽~い気持ちで適性検査を受ける子(いわゆるチャレンジ層)が割と多くいました。
塾の公立コースも結構のんびり・ほのぼのしていて、「ウチの子は私立受験はさせないけど、今のうちに塾で勉強させて高校受験で少しでも楽してほしい」「その過程で公立中高一貫校に受かればラッキー」という保護者の方も多く、ガツガツ対策すると温度差を感じることもありました。
けれども、2010年あたりから、私立コースと同じようなピリピリした「絶対合格!!」ムードに傾いてきたのを肌で感じていました。
その結果、受検生の多くがかなりの練習量を積んで本番を迎えるようになり、全体的な水準は右肩上がりで高くなってきていると感じています。
適性検査の過去問が蓄積されている
10年前と比べ、「演習できる過去問の量」が圧倒的に増えています。
以前はせいぜい2、3年分の銀本で練習する程度でしたが、今はやろうと思えば10年分以上×百校以上の過去問演習をすることができます。
適性検査は慣れたもん勝ちですから、練習ができる材料があるということは、それだけ受検生のレベルが上がってきている、ということです。
適性検査の対策をする環境が整備された
家庭学習と同じように塾業界も進化してきていて、教え方や適性検査のコツなど、適性検査で高得点を取るためのノウハウがかなり確立されてきました。
都立白鷗が開設された2005年頃は、まだ塾としてもカリキュラムや教材が十分ではなく、講師が試行錯誤しながら適性検査の対策をしている状態だったんです…。今思うと、よくやってたな~と思います(笑)
塾に限らず、家庭学習でも十分な対策が取れるような環境が整ってきたということです。
まとめ
公立中高一貫校の倍率は全国的に落ち着いてきている傾向にあります。
しかし、「倍率が下がった」=「受かりやすくなった!」と考えるのは危険です。
適性検査本番に向けてしっかり対策をしてきた受検生との戦い、つまり少数精鋭の中で何とか合格をつかみ取らないといけないのです。
しかし、この逆境を、こう考えてみてください。
「対策をする環境が充分すぎるほど整っているからこそ、本当に必要な学習だけを選択できた子が勝つ」
適性検査の対策をさせていて、「何から手をつけたらいいか分からない!」と感じたこと、ありませんか?
参考書や塾の選択肢が豊富にあるからこそ、「量をこなして『やったつもり』だけど、結果には繋がっていない」という落とし穴があちこちに存在しているのです。
だからこそ、この記事を読んだお父さん・お母さんは、たとえ表面的な倍率がどう変化しても一喜一憂しないで欲しいのです。
「受かりやすくなっていますよ~」という甘い言葉を聞いたときこそ、気を引き締めて周りと差をつけるチャンスです。